森川さんはひょっとしたら房総最後の風呂桶職人になってしまうかもしれません。

「昔はね、どの街にも桶屋があったですよ。風呂桶だったり、樽だったり、それこそ1回買えば10年は持ちますから。ちょっと壊れてもいつでも直せたしね。」

割れたり、腐ったり、折れたりしても職人の身一つ、技術があればほとんどのものは直すことができたし、何より使っている人たちの日々の使用こそが品物を長持ちさせたのです。

でも今はほとんどの物においてほんの少しの破損でも買った方が安いですよと言われる。

「ここら辺は農家が多かったから、敷地内の杉を倒して材木屋にその木を挽かせてね、行くと材料が用意されてるんですよ。そしたらそこで風呂桶作ったりね。」

今で言う材料支給。

正に道具と自分の技術だけ持っていれば仕事になりました。

森川さんの職場は畳一畳ほどの空間。ここに驚くほどの削り道具、ノミやカンナが掛けてあり、そこから数々の桶が生み出されるのです。材料の板もカンナをかければご覧の通りツルツルに。重要な部分は木釘を入れて頑丈に。

材料の形が不揃いでも道具を使って器用に整形していきます。

こんなに丁寧に作られて、できた桶は控えめだけど、ちょっとではへこたれない人間の下僕となり、役目を終えるとその殆どが自然に帰る。

これを今流行りのサステナブルと言わずして何と言いましょう。

「お弟子さんて今まで居なかったんですか?」

「居たけど、やっぱり辞めちゃいました。桶屋やってもお金にならないもんねぇ。」

自然環境を破壊する企業が声高にサステナブルを叫ぶ現代のものづくり。そしてそれを利用しながらもサステナブルを意識するぼくたち。森川さんにはどう映っているだろう。

「あと2、3年は作りたいですよねぇ。」

人間国宝とか、国民栄誉賞とか、そういう勲章のはるか手前。

でも知ってもらいたい、見てもらいたい人がいる。

こんな地域がまだまだ全国各地にあると思うのです。

それらを発見して地域の成り立ちを知る、そんな文化を誇りに思う、地域愛が醸成される。

そんな地域での暮らしを幸せに感じることができたら地域創生って自然に出来上がるのかもしれません。

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