明治以来、百年のうつろいを見つめる町屋建築
この建物は明治時代(詳細年代不明)に建てられたもので、平成24年、建物の保存を目的として改修されました。建築当初は、足袋(たび)を作り、商う足袋屋でした。店の近くには竹屋という大きな旅館があり、出入りしていた芸者さんからの注文も引っ切り無しにあったそうです。
改修前の建物には小屋裏部屋があり、そこには丁稚奉公(でっちぼうこう)の職人が住み込みで働いていました。朝早くから夜遅くまでひたすらここで足袋を作り、一日が終わりこの狭い小屋裏部屋の床へ就く。そんな毎日の中で、低い天井を眺めながら彼らは明日の立身出世を夢みたのです。ここには、そんな職人たちが眺めた天井、手に触れた小屋組みがそのまま残されています。
時代が変わり、洋服を着る文化が入ってくると足袋の注文は少なくなり、足袋屋は廃業となります。変わって、洋裁を得意とした姉妹がここの住人となりました。姉妹はオーダーメイドの洋服店を始め、この建物は足袋屋から洋服店へと変わりました。姉が亡くなったあとも、妹は手しごとが続けられる限り、ここでミシンを踏み続けたのでした。
時代が移り変わっていく中、明治から大正、昭和、平成へと長い間、商店街を見つめ続けてきたこの建物も、すっかり歳を取りました。外壁をくるんでいるトタン板は錆び、土壁は所々が崩れ、土台が腐っているところも見つかりました。建物を残すか取り壊すかの選択に迫られた時、改修を行い後世に残すことを決断しました。平成23年の冬のことでした。平成24年5月改修工事に着手し、4ヶ月半掛けて完成。「北土舎」として生まれ変わったのです。この決断が、姉妹を始め、ここに居住してきた先人たちの願いに応えることができたなら、これほど嬉しいことはありません。
姉妹の妹が晩年愛した生活雑器。陶器、ガラス、竹製品。芸術性よりも使いやすさや手しごとの味わいを感じることのできる、生活に根差した庶民のための機能美あふれる雑器を買ってきては、嬉しそうに家族に見せるのでした。改修を終えた北土舎で、そのような雑器を取り扱うことができるのも、何かの縁のような気がしてならないのです。
コンセプトは、「千葉の民芸、千葉の手しごと。」
一見、工芸品の印象が少ない千葉県ではありますが、県内の各地域にはまだひっそりと民芸品(民衆的工芸品)や伝統的工芸品が作り続けられている場所もあります。また、千葉県内で活動する工芸品作家も数多くいらっしゃいます。
北土舎では、これらの実用的で、使って気持ちの良く、美しい品々を作る作り手と皆様をつなげるお手伝いをしていきたいと考えます。
ただ商品を販売するだけではなく、伝統的工芸品の展示会や体験ワークショップの開催、ホームページやFacebook(フェイスブック)を通しての情報発信、イベントへの出張参加など、作り手のストーリーをお伝えしつつ、皆様に工芸が身近に感じていただけるよう工夫して参りたいと思います。